株指南

官製相場 ー 公的資金投入の功罪

今日はちょっと難しいお話をしましょうかね。
理解できなくてもいいですからね。サラリと読んでください。

ただ将来的に株式市場はどうなっていくんんだろう… と考えたときに、ちょっと頭の片隅に入れておいてほしいんです。

私が証券会社にいた1990年代というのは株式市場にとって非常に厳しい時代でした。
1989年12月30日の史上最高値38,915円から、たった1年で日経平均は約1,500円下がったんですが、のちに発覚した証券不祥事(詳しくは過去記事【 IPO銘柄は儲かるのか? ① 】を読んでくださいね)で下がるわ下がるわ、その後も下がる下がる。
結局株価が底を打って反転したのは2009年。20年にわたって下がり続けたんですよ。

入社したときはまだ第二次オイルショックの余波が残っていて、損失を受けた方の傷未だ癒えず、という状態でした。
入社二日目、初めての飛び込み営業。一番最初に訪問した商店で、「損させる証券会社に用はない」といって名刺を破られてコップの水かけられましたね。
今でもついさっきのことのように思い出します。
支店に戻ってそのことを先輩に話すと、「昔から『半値・八掛け・二割引』と言ってさ、本当に株が下がるときはそうなるんだよ。その人、それくらい損したんじゃないかな。」と返ってきました。

「半値・八掛け・二割引」…  0.5✕0.8✕0.8=0.32 元の値段から約3分の1になる計算です。
でも日経平均はそれを上回る約5分の1になっちゃったんですよね。

実はバブルがはじけた1990年代、株のあまりの下落ぶりに政府が手を打ち始めました。
公的年金の積立資金の一部を株式に振り向けるという対策を打ち出したんですね。

まあ、買付け枠の制約(総資産に対する買付け枠の割合が固定されていたのでそれ以上増やせない)があって、最初はものすごく期待して実際下げ止まったんですが、結局力尽きてまた下がり始めたんですよ。

そのときに市場関係者の間でつぶやかれたのが
「官製相場」は市場を歪める、あれがなかったら市場は上がり始めたのに… という言葉でした。

さて、そこでアベノミクスです。
日銀がETFの買い入れを始めたのは2010年。(日銀のETF買入れについては過去記事【「3月期末高」はあるのか 】をご参照ください。)
「異次元の金融緩和」で2013年からはなりふり構わない株価対策を行いました。
あまり話題にのぼりませんが公的年金による株買い支えというのはまだ続いていて、公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が保有している株の時価総額というのが2021年12月末時点で50兆円(その他に外国株式51兆円)に上ります。

少し時期がずれますが2021年9月末時点の日銀ETF買入残高は約36兆円。
GPIFの残高と合わせると約86兆円。 東証1部の時価総額が約700兆円ですからどれくらい大きな額かよくわかりますよね。
今の相場が「官製相場」と言われるゆえんです。

私は決してこれが悪かったというつもりはないんですよ。
実際10,000円以下であえいでいた株価が3倍になったわけですからね。
投資家は元気が出たし、それによって消費も伸びる、さらに企業活動も活発になりましたので。

ただ株価の動きを見ているとちょっと露骨過ぎるかな、と思う部分が多々あります。

そもそもこの残高、一体どうするんでしょうかね。
「や〜めた」って(言わないでしょうけど)ことになったらどうなるんでしょうか。

これまでは買い支えられましたけど、これから先永遠にこのペースで買い続けられるわけもなく。
日銀の政策転換もあるでしょうし。

日経平均の動きを見ていて特に感じるのは、需給関係がいびつになっているということです。
下げ局面で下手に買い支えてしまうと買い方の整理が進まないんですよ。売り方も下手に売れない。
チャート上では思い切って下げなきゃいけない場面で下げないから、上昇力も中途半端になってまた売り叩かれる。結果として上値に戻り待ちの株が溜まっていく、という感じです。

政府の関与というのは、下げが止まらない、あるいは長期低迷期には効果を発揮します。
でもあるところまで行ったら手を放して本当に困ったときにまた出動する、そうすべきだと思うんですよ。
親の子離れと一緒です。

この官製相場がこれからどうなっていくのか私には全く予想がつきません。
ただマーケットというのは正直なもので、こういうひずみというのは必ずどこかで何らかの形で修正されます。

あくまでマーケットが官製相場をどう評価するかによりますけれども、ゆがみが修正されるときというのは往々にして痛みを伴います。

念のため、「そういうこともあるかもね…」くらいに受け止めていただきますれば。

では、今日はこれで終わりましょう。

 

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