株指南

IPO銘柄は儲かるのか? ①

なんかIPO銘柄ってのがほぼ確実に儲かるとかネットで見かけたんだけど… 本当なの?

ん〜、株の世界にそもそも確実ってのはないので…
ただ今の人気度合いからすると利益をあげられる可能性は高いですね。今のところはだいたい儲かってます。

IPOは儲かる、ここの証券会社なら当選しやすい、など、検索ワードにIPOと打ち込むだけで証券会社の広告が並びます。
たしかにそうなんですよ。

で、IPOってなんだ? というところから始めないといけないんですが、日本語に直すと「新規公開株」のことです。
これから新たに東京証券取引所の各市場や地方取引所に上場してくる会社の株で、「上場前に」手に入れることができる株です。

そんなIPO株なんですが、ちょっと今日はそれに関連した「業界の闇」のお話をしてみたいと思います。

誤解を招いてはいけないのであらかじめ今日のお話の主旨と私の立場を明らかにしておきたいのですが、これからするお話は30年以上前の「過去の話」で、今の証券業界がこうなんだというお話ではありません。
今のように個人投資家のネット取引が盛んになって、市場の透明性や公平性が保たれているのも、思えば30年前のあの時代から、投資家と証券会社、取引所などの関係者が長い時間をかけて一生懸命築き上げてきたからだと私は思っています。
短いながらも10年間お世話になった証券業界ですので、投資家の信頼を得てこれからもさらに発展してほしいと心から願っています。

で、それとIPOとなんの関係があるん?

はい、実はネットに踊る「IPO銘柄を手に入れるしくみ」というのは実は今からお話するできごとがきっかけになってできあがったものなんですよ。

さっそく説明していきますね。

IPOっていうよりは「新規公開株」といったほうがなじみ深い方は多いと思います。
ここまでお話しただけで、「ああ、あのことね…」とピンときた方もいらっしゃるのでは。

1989年12月30日に日経平均は38957円44銭の史上最高値をつけたあとバブルがはじけ飛んで、4ヶ月で10,000円下落、1年でさらに5,000円下落しました。
これまでにもお話ししたとおり、個人投資家はいつ戻るやも知れない株価をにらみながら、気がつくと手持ちの株式資産はあっという間に半分、3分の1になっていたんですよ。

当時、投資をしているのは個人だけではなくて、機関投資家と呼ばれる金融機関はもちろん、一般企業までが低金利を背景にして株式投資を始めていましたから、その損失が膨大なのは想像つきますよね。
法人の株式運用というのはいろいろスタンスがありますが、個人投資家のように20%、30%というリターンはあまり狙わないです。
社員が一生懸命稼いだ会社のお金ですから、「やっちゃいました」というわけにはいかないです。ですから銀行の金利水準よりも1%でも2%でも高い利回りで運用ができればOK、それだけで経理・財務担当者は大喜びだったんです。

企業としては少しでもパフォーマンスの上げられる証券会社で取引したい、証券会社もその企業と取引したい、そこで何をしたかというと「取引一任勘定(とりひきいちにんかんじょう)」といって、形態はまちまちでしたが、「〇〇億円預けるからお任せで売買していいよ。その代わり◯%の利回りを確保してちょうだい」というお約束をしたわけです。
これは当時の証券取引法違反となりますし、約束の利回りに届かないことで損失を補填するのも違反です。
証券会社の社員がこうした約束をしたら一発でクビです。 私は法令違反を理由に断りましたが、ある企業では他の証券会社とやってましたね。
(後に大蔵省から公表された「損失補填を受けた企業」のリストに載ってましたね…)

証券会社も取引一任勘定やっていたことをバラしてほしくない。
企業側も、全額は無理にしても、担当者が社内で言い訳がつくくらいまでは利益を挽回してほしい。(企業も損失補填を要求すると違反になります。)
何買っても上がるような相場ならすぐに挽回できたんでしょうが、バブル崩壊後の下げ相場ではそれもできなかったわけです。

そこでその損失補填に使ったのがこの「新規公開株」だったんですね。
こうした行為が明らかになったのが1991年のいわゆる「証券不祥事事件」「証券スキャンダル」というやつで、その後も相場は低迷を続けました。
当然ですよね。投資家は証券会社のことなど信用できなくなったわけですから。

ちなみに…大手証券が総会屋に対してこれをやってたんですね。
役員は逮捕されました。
四大証券の一角だった山一證券はこれで倒産しました。
(総会屋についてはネットでご検索を。今ではほとんどいないそうですが。)

今でもそうですが、株式の公開(上場)に際して主幹事の証券会社が新規公開株の多くを引き受けます。(これは次回記事でご説明します)
値段の決まり方もブラックボックスだし、引き受けた新規公開株が社内でどのように配分されるかもわからない。
つまり「一般個人投資家には手に入らない」 シロモノだったわけです。

それではイカンということになって、個人投資家の方が誰でも手にれることができるようにと、公開前の入札制度が始まったんですね。
入札期間が決まると、投資家はあらかじめ決まっている「下限価格」をもとにして、自分の希望する値段で入札します。
セリと同じです。

落札株数(募集株数)は決まっていますから、入札価格の高い順から落札株数を割り当てていって、落札株数に達したところで入札は終了となります。
これをもとにして公開価格が決まるんですね。 高い入札価格を提示した人はある程度落札できる可能性は高いですが、決まった公開価格が自分の入札価格より低くても、自分の希望した高い入札価格で購入しなければいけません。
逆にうまく安く落札できた人は、公開価格(売り出し価格)のほうが高くなって、その時点でもうプレミアがつくわけですね。
「いくらで入札するか」が悩みのタネでした。

これが今のIPO銘柄の売出し制度の原型なんですよ。
今は「ブックビルディング」といって入札方式ではないやり方に変わりましたけれどもね。
基本的なしくみは同じです。

さて、いかがでしたか?
当時は新聞やニュースで今日のお話の内容は詳しく報道されていましたので、私と同年代の方は覚えていらっしゃるかもしれませんね。

なかなかお話できない業界の裏話でしたが、今は投資家を裏切るようなこうした行為は絶対にないと信じていますし、本当にこれからも投資家の裾野が広がって、証券市場が発展していくことを願ってやみません。

ずいぶん脱線してしまいましたが、次回はIPOに関連して、なぜ企業は上場するのか? というお話をしていこうと思います。

では。

 

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