株指南

投資のテクニック ⑧ クロス取引

クロス取引という売買方法を聞いたんですが、どういう時に使うのか教えて下さい。

承知しました。最近ネットでもこの言葉が増え始めましたね。
今日はこのクロス取引について説明しましょう。

クロス取引というのは、寄付きなどに「同一銘柄・同一株数・同一価格」で売りと買いを同時に成立させる取引です。
「どんな時に使うのか」というよりは、「なぜこの手法を使うのか」を説明したほうが良いと思うので、そこから説明していきますね。
最近ネットに書かれている内容(株主優待狙いなど)についてはその後でお話しします。

ではさっそく。

「なぜこの手法を使うのか」ですが、もっというと「なぜこの手法を使わなければいけないのか」という観点でお話しますね。

《ケース①》
長年取引関係にあったA社の株を政策目的で古くから大量に保有していた。
大量に保有する株主としてA者に対し発言力を持っていたが、このたび取引関係が解消して保有するメリットがなくなったのでA社株を売却して現金化したい。
しかし市場ではA社株の出来高が少なくてとても売れない。

《ケース②》
今期の決算状況が悪いので、古くから保有しているB社株を売って利益を出したい。
しかしB社とは長年良好な取引関係にあり、大量保有株主として発言力は維持したいので、売却後は再びB社株を買付したいが、出来高が少ないので値段が上がってしまう恐れがある。

《ケース③》
今期非常に決算状況がよく、納税額も相当膨らむ見通しだ。
ちょうど高値で大量に買ってしまったC社株があるので、これを売って売却損を計上し、利益を減らして税金を減らしたい。
しかし市場ではC社株の出来高が少なくて少しずつしか売れない。このままでは決算期末までに間に合わない。

かつて私が証券会社在籍時代、このようなケースがよくありました。
行うのは個人ではなくて上場会社や大企業です。

いずれの場合も、売りたくても売れない、買いたくても買えない、という状況ですね。
こうした場合に証券会社(たいていは幹事証券会社)が前後の売買高から判断してタイミングを計り、証券会社の自己売買部門がその相手方となって売り(買い)注文を受けます。
クロスを振る(クロス取引を行うことをこういいます)のは東京市場の場合もありましたが、多くは当時の大阪市場でしたね。(今大阪市場はありません。)
東京市場だと一般投資家からの注文が邪魔になって、クロスを振る株数や値段をうまく付け合わせできないからです。
市場外の相対取引で売買を成立させるケースもありました。

ケース②の買い戻しのケースでは時間をかけて市場で買っていくか、証券会社がB社株を買い集めてクロスを振るか、です。
またいずれのケースでも、対象となるA社、B社、C社の株価が今後上がっていくと考えられる場合は、証券会社が顧客に推奨して注文を集め、売り注文と付け合わせることもありました。

のちほど個人がクロス取引を行う場合の説明で触れますが、このクロス取引というのは市場の誤解、投資家の誤解を生むことがままあります。
上のケースで考えてみてください。出来高の少ない株がクロス取引によってその瞬間突然出来高が膨らむわけです。
そうすると投資家の思惑が働いて、売り買いの注文が増えるということがあるわけですね。
そのために新聞の株式欄には毎日「主なクロス」という欄で公表していました。

これが「クロス取引を行わなければいけなかった」本来の理由です。
クロス取引といえば何も言わなくてもこうしたケースをさしていたんですよ。
一部の証券会社の証券用語解説では「機関投資家が行う」と書かれていました。ここで説明した昔の名残ですね。

さて、ではネットで書かれている個人(一般法人)のクロス取引について説明していきましょう。
実はこのクロス取引というのは現在では金融商品取引法に触れる恐れがあって、厳しい制約があります。

上のケースでは売買の相手方が主に証券会社でした。
ですから株式の所有者が変わります。つまり「権利の移転」がなされるわけです。
これからご説明するクロス取引は「権利の移転を目的としない」取引で、投資家が「自分自身で」売り買いを同時に成立させる方法です。
売り注文と買い注文を同時に出すんですね。

ネットでよく見かける「株式優待狙い」のクロス取引についてご説明します。

上場企業の決算末、権利付き最終日までに、
・現物の買い注文を出す。これによって株主となり優待券の権利が確定。
・同時に信用取引で同じ銘柄を同じ株数、同じ値段で空売り。
・決算末を過ぎたら現物株売却、空売り建玉を買い戻して返済。(反対売買)

持ち続けた場合でも
・株価が下がった場合、現物株で損が出るが空売りの利益と相殺される。
・株価が上がって空売り建玉に追証がかかっても現渡しすれば損は出ない。

という理屈です。「最短1日ででき、株主優待だけいただいてリスクゼロ。」
これがネットの説明です。

しかしこれは大間違い。

・手数料がかかる。
・みんながこれを行うと売り残が急増して逆日歩がかかる
・配当金はもらえるが税金が引かれる。逆に空売り分は配当分満額支払わなくてはいけない。

なんですよ。
結局株主優待の金額換算価値よりも多く支払わなくてはならないリスクが付きまといます。
正直やめておいたほうがいいです。

また上で書いた「制約がかかる」というのは、先にご説明したとおり金融商品取引法にふれる可能性があるからなんですね。
急に売買が増えれば投資家の誤解を生みます。また意図的に行うと相場操縦や仮装売買とされることもあります。
ですのでクロス取引を行う場合は、大まかですが寄付き、前引け、後場寄り、大引けの注文に限られます。

ついでなんで、「アウト」な事例を列挙しておきます

・ザラ場(取引時間)中のクロス取引は相場操縦や仮装売買とみなされる恐れがあって禁止です。(注文しても受け付けられません)
・注文受け付けられないので買い注文はX証券会社、空売りはY証券会社へしたらどうなの? ➔ これもダメです。馴れ合い売買と行って禁止です。
・じゃ、買いは自分の名義、売りはヨメさんの名義 これは? ➔ これもダメです。つかまりますよ。
・法人の「益出し」「損出し」クロス(ともに現物)をしても、税法上売買をしたとは認めてもらえません。ただし単純に売るだけの一方通行、5日ほど経過したあとでの買い戻しは認められるようです。

結局…
ネットではいろいろとメリットが書かれていますが、リスクもあって得るものはほとんどない、ということですね。

いかがですか?
姑息な手段を使ってオイシイ思いをしようと思っても、そんなオイシイ話はありませんよ、っていうオチでした。

では、今日はこれで終わりましょう。

 

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