さて、これまで信用取引のイロハから活用法までご説明してきましたが、今日はその最終回。
株価の動きを見極める際に参考になる信用取引の需給関係 ー買い方・売り方のバランス ー についてご説明します。
前回記事【 信用取引ってなんだ? ⑨ 信用取引と株式市場 − 証金残と信用残 】では、建玉の状況、つまり買い建玉と売り建玉がどれくらい残っているかを把握できる二つのデータのお話をしましたね。買い残(融資)と売り残(貸株)でした。
買い残が多ければ将来の売り圧力、売り残が多ければ将来の株価下支えになるだろうというお話でしたね。
ではこの二者のバランス、つまり売りと買いの需給関係が株価にどう影響を与えるか、について今日はお話を進めていこうと思います。
信用取引の場合、買建てする際には順張りして買い上がっていくケースが多いですから、株価の上昇局面で買い残が増えますね。
逆に下がり始めるとこんどは売り残が増えてきます。
つまり上値もなかなか抜けないけれども下値の心配も少なくなる、ということになります。
しかしこの両者が拮抗し始めると、場合によっては
・上値には買い残の売り圧力があるけれども、高値を突き抜けると売り方が慌てて買い戻す動きが出て一気に上昇する。
・下値支えを期待していたが、底値と思ったラインを下回ると投げ売りが出て急落する。
という事態も起こりえます。
ですので信用残の大きさと並んで、両者のバランスを見ることも大切になってきます。
この両者のバランスを「取り組み」といって、買い残(融資残)を売り残(貸株残)で割って求めた割合を信用倍率(貸借倍率)といいます。
わかりやすくいうと
・証金残で見る場合「貸借倍率」 融資残➗貸株残=貸借倍率(倍)
・信用残で見る場合「信用倍率」 買い残➗売り残=信用倍率(倍)
です。
通常は買い残のほうが圧倒的に多いので、1倍以上です。
しかし上で書いたように売り残が増えて両者が拮抗するとこれが1倍になったり、売り残が買い残を上回って1倍を割ったり(この状態で逆日歩が発生します)します。
こうなると売り方の買い戻し期待が高まり、高値を突き抜けて一気に株価が上がる(これを踏み上げといいます)ケースがあるので、両者が拮抗してくると「取り組みがいい」と高評価を受けることがあります。
信用残が発表されると、よく株情報サイトや証券会社アプリなどで「好取り組み銘柄」「取り組み好転銘柄」としてリストアップされるのはこうした銘柄なんですね。
ですから銘柄選びの際、こうした信用の需給をみながら判断するのも一つの方法です。
ここで注意点が三つあります。
①倍率が1倍前後だといっても、必ずしも好取り組み銘柄とは言えない
②「逆日歩に買いなし」の格言を気に留めよう
③あくまで信用取引の指標は参考までに。
なんですよ。
①ですが、取り組みが良くなるパターンとして、
・買い残も多いが売り残が増えてきて取り組みが良くなった
これは上で説明した状態です。問題ないですね。
・買い残が多かったのだが株価上昇で返済が進み、結果買い残が減って取り組みが良くなった。
この場合は取り組みが良くなったとは言えませんよね。
ですから倍率が低い場合でも、信用残が普段の出来高と比較してあまりに小さい場合は、そもそも株価に与える影響は微々たるものです。
したがって好取り組み銘柄とされる銘柄を見る際には、必ず出来高と信用残を比較してほしいですし、また信用倍率が高い場合や期日売りが気になる場合も比較しておくと良いです。出来高に比べて微々たるものであれば、株価への影響も気にしなくてすみますしね。
②「逆日歩に買いなし」なんですが…
これは昔から言われていることなんですよ。
これまで説明してきたことからすると「逆日歩は買い」になるんですが、株不足が解消して逆日歩も解消するとまた空売りが増えるので、買うのは控えたほうがいい、という意味です。
「逆日歩がつくようになるまで信用倍率が低下して踏み上がるような状況は本来の姿ではない、その反動は来る」という戒めだそうです。
覚えておきましょう。
③あくまで信用取引の指標は参考までに。
前回記事で書いたとおりです。信用残とか取り組みなどのデータはあくまでも参考指標にすぎません。
株式市場全体の方向性をつかむこと、銘柄の中期的な傾向を把握すること、業績の見通しを確認すること、チャートで株価の位置を確認すること。
が基本ですから、これらをすべて踏まえた上で信用倍率、貸借倍率を参考にしていただきたいと思います。
さて、信用取引についてのイロハから実務、応用まで、このシリーズでカバーできたのではないかと思います。
リスクもありますが、うまく使えば本当に有利な取引方法ですので、ルールをしっかり把握して信用取引を始めていただきたいと思います。
では。