前回の記事では、買い建玉の高値からの期日に売りが増えるしくみをお話ししました。
期日売りが株価の圧迫要因になるというお話でしたね。
では売りが増えるタイミングを狙って安値で買ったらどうか、また空売りでは安値からの期日に買いが増えそうだからその前に買っておいたらどうか…
そのように考えられますよね。
もし買い建玉が多ければそれは先々売り圧力になりますし、売り建玉が多ければ株価上昇につながるかもしれない、だから売り買いの建玉がどれくらいあるのかがわかれば、
銘柄選びやタイミングの参考になりますよね。
この「買い建玉がどれくらい残っているか」「売り建玉がどれくらい残っているか」はあなたも「証金残」「信用残」の二つのデータから把握することができます。
今日はこの二つのデータについて、その見方と考え方についてお話していきましょう。
①二つの信用残
②実際の活用法
の順に説明します。
①二つの信用残
売り建玉、買い建玉の残高をあらわす数字には二種類あります。
一つは「証金残」といって日証金(日本証券金融株式会社)が公表する残高です。
もう一つは「信用残」といって東京証券取引所が公表する残高です。
この二つの違いについて説明しますね。
◯まず証金残から。
まずあなたが証券会社に信用取引で注文を出したとします。
証券会社はその銘柄の買建て株数と空売り株数を付け合わせて、融資金額(買建てした人に貸す買付け代金)または貸す株式数(空売りした人に貸す株)が証券会社内で足りていれば「店内食い合い」といって証券会社内で完結します。
しかし足りなくなった場合は、日証金に「貸してちょうだい」とお願いしなければいけません。
日証金は「いいよ」といって証券会社にお金を貸付したり株を貸したりするわけです。
日証金はこのように各証券会社から依頼があった融資金額と株数を銘柄ごとに集計して毎日公表します。これが証金残です。
買建てに対する貸付は「融資」、空売りに対して株を貸すのは「貸株」という項目で共に株数で表示されます。
過去記事【 信用取引ってなんだ? ① 基本のしくみ−新規建てと決済 】で説明した、制度信用取引のしくみがこれなんです。
ですから証金残は制度信用取引のみで、一般信用取引の残高は含まれません。
傾向は把握できますが、「買い建玉がどれくらい残っているか」「売り建玉がどれくらい残っているか」は正確には反映できません。
しかし証金残は「銘柄ごと・毎日」公表されますから、銘柄の動きを素早くつかむことができますね。
銘柄ごとの証金残はこちらで検索することができます。
日本証券金融株式会社 貸借取引情報
( https://www.taisyaku.jp/ )
◯では信用残を説明しましょう。
信用残というのは東京証券取引所が週1回、その週の第2営業日に前週分を公表する残高です。
信用残、といったら通常こちらの残高をさします。
買い建玉の残高を「買い残」といい、売り建玉の残高のことを「売り残」といいます。
さらに買い残、売り残を総称して「信用残」といいます。
信用残は投資家が証券会社を通して行った信用取引すべて、つまり制度信用取引と一般信用取引のすべての残高が集計されます。
ですので信用取引の動向が正確に把握できるわけですね。
しかし証金残が毎日公表される一方、信用残は1週間に1回ですから、証金残のように日々リアルタイムで動きをつかむことができません。
短期で売買される方は毎日の情報として証金残を、じっくり銘柄を検討するなら信用残を参考にするのが良いと思います。
②実際の活用法
投資家によって証金残、信用残を重視する方もいれば、信用残は価格動向には影響がないとする見方もあります。
前回記事で書いたように、追証の急落に比べれば下げも緩やかですし、「無事期日を通過」というケースが多いですね。
しかし買い残の株数は現引きしない限りいつかは売り注文となって出てくるわけですし、売り残にしても必ずどこかで買い戻ししなければいけないわけです。
ですからそれが株価の急な上下をもたらさないにしても、上昇時の圧迫要因になることは間違いありませんし、下落時の下支えに一役買うことは間違いないと思います。
まずは一例を見てみましょう。これは銘柄コード9861 私がいつも世話になっている吉野家HDのデータです。
まず2番目の図の株価動向から見ていきましょう。
直近の高値2,468円をつけたのは1月18日です。ここから一旦1月27日に安値2,331円をつけたあと、2月に入り再び上昇していく、という動きを見せています。
出来高を見ていただきたいのですが、1月18日の高値をつけた急騰場面の出来高は2日連続で90万株を超えています。
その後50万株前後で推移したあと、2月18日には150万の出来高となりました。
株価は1月18日の高値に挑戦しましたが、2月21日現在では1月18日の高値を抜けていない状態です。
ここで1番目の図を見てみましょう。
2月10日までの信用残をみてみると、売り残がに比べて買い残が極端に少なくなっていて、前週比で見ると売り残の増加ペースがはるかに大きく、買い残の増加はわずかです。
また150万株の売買があった2月18日の証金残を見ても同じような傾向になっています。
さて、このことからどんなストーリーが考えられるでしょうか。
まず2月10日の週(2月7日〜2月10日)は1月18日の高値を抜こうと買いが集まっている状態です。
毎日2,400円台で上値に挑戦するのですが、なかなか2,468円を超えられない展開でした。
ですので、
・1月18日の高値近辺で買った投資家の戻り売りがかなり出ている。(買い残は減る)
・2,300円台で買った投資家は高値が抜けないと見て利益確定売り。(買い残は減る)
・1月18日高値を越せないと見て(株価の習性として高値を抜けないと一旦下げることがよくあります)空売りを仕掛けてきた。(売り残の増加)
と推測可能です。
さらに株価の見通しとして「短期的には下げるのでは。しかしその後は空売りの買い戻し期待で下げ止まるのではないか」という予想も立てられるわけです。
逆に下げ始めると、売り方の回転がきいてきてさらに売り込まれる、という予想も立ちます。
このように信用残や証金残とチャートを組み合わせながらいろいろな予想が可能になるわけですが、一つ注意していただきたいのは、
・信用残、証金残はあくまでも株価が動いた結果として出てきた数字であること。
・投資家心理を知る上では役に立つ部分もあるが、この結果が株価を動かすわけではない。
ということを念頭に数字を見るようにしてくださいね。
銘柄選びの基本は、これまで何度も繰り返してきたように、
株式市場全体の方向性をつかむこと、銘柄の中期的な傾向を把握すること、業績の見通しを確認すること、チャートで株価の位置を確認すること。
が基本ですから、これらをすべて踏まえた上で信用残、証金残を参考にしていただきたいと思います。
では、今日はこれで終わりましょう。